活字の展示コーナー(印刷製本部)

‥ジョバンニはその人の卓子の足もとから一つの小さな平たい函をとりだして向うの電燈のたくさんついた、たてかけてある壁の隅の所へしゃがみ込むと小さなピンセットでまるで粟粒ぐらいの活字を次から次と拾いはじめました。青い胸あてをした人がジョバンニのうしろを通りながら、「よう、虫めがね君、お早う。」と云いますと、近くの四五人の人たちが声もたてずこっちも向かずに冷くわらいました。
ジョバンニは何べんも眼を拭いながら活字をだんだんひろいました。(銀河鉄道の夜)
まだ印刷や活版について知らない頃にこれを読んで、床に転がした活字を拾わせて、学生アルバイトを泣かせるなんて、活版所(印刷所)とはなんと意地が悪い、酷いところかと思っていました。
活字棚から必要な活字を探して、箱に納めていくことを「活字を拾う」と表現します。
ジョバンニが拾っていたのは、ルビに使う活字だと考えられており、4ポイントだとすると約1.4㎜ですから、正に粟粒ぐらいの小さい字面を、眼をこすりながら見分けているのであって、涙を拭っているわけではありません。
その活字も今や、床に転がしてあるどころか、ガラスケースに並べられるものとなりました。
玄関ホールに展示しておりますので、ご来社の際は、ぜひ足を止めてご覧下さい。
優しい社員がご案内致します。